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2019年3月29日

病院へ急がなくてもよいことになった


New Study Supports Extended Time for tPA in Ischemic Stroke to 9hours - Neurology Today
2019  3月  オーストラリア

t-PAをつかった血栓溶解療法はこれまで 脳梗塞が発症してから4.5時間を超えると適用できないとされてきた。

しかし画像診断技術の進歩により24時間までは回復可能な脳組織を確認しうることがわかってきた。

そして t-PAの適用時間を延長することの臨床試験
EXTEND (Extending the Time for Thrombolysis in Emergency Neurological Deficits) トライアルの成果がえられたそうな。
先月の国際脳卒中会議でオーストラリアのモナシュ大学の報告。



脳梗塞患者225人を2グループにわけて、いっぽうにはt-PAのタイムウィンドウを9時間を上限に設定した。他方にはプラセボを与えた。

患者選別に際して断層画像から虚血で死にかかっている組織(ペナンブラ)を自動識別するアルゴリズムを使用した。


次のようになった。

・患者内訳は、10%が発症から4.5-6時間で、25%が6-9時間、65%は起床時に脳卒中に気づいたケース(Wake up stroke)だった。

・発症から治療までの時間中央値は7.2時間だった。

・90日後のmRSスコア0-1(障害なし相当)は37% vs. 29%でt-PAグループにおおかった。

・90日後の死亡者率は10% vs. 9.5% でt-PAグループがわずかに高かった。

・症状をともなう頭蓋内出血の発生率は 6% vs. 1% でt-PAグループで非常に高かった。

t-PAのタイムウィンドウを9時間に拡大することで死亡者を大幅にふやすことなくおおくの患者の回復をうながすことができそうである、


というおはなし。
図:EXTENDトライアルの成果


感想:

t-PAはもともと3時間までといわれていて、それゆえに早くに救急車を呼ぶ必要がありFASTキャンペーンの根拠になっていた。

それがいつのまにか4.5時間になり、こんかい9時間でもOKとなった。

日本はもっと先進的で、時間の上限をはずしてしまったようである。↓
脳梗塞 “血栓溶かす治療をより多くの患者に” 治療指針変更
(3月22日 NHK news)

こうなるともう「いそいで病院にゆく必要ないじゃん」とふつうは思う。
\(^o^)/

2019年3月28日

Stroke誌:脳内出血の肥満パラドックス


Obesity Paradox in Intracerebral Hemorrhage
2019  3月  アメリカ

脳内出血は脳卒中の10-15%をしめる。いっぽう肥満は 糖尿病、高血圧、冠動脈疾患、脳卒中のあきらかなリスク要因である。

肺高血圧や肝臓病、冠動脈疾患では肥満の患者ほど生存可能性が高いという「肥満パラドックス」が数多く報告されている。

脳内出血の肥満パラドックスについては報告がすくないので、きっちりとしらべてみたそうな。



データベース Nationwide Inpatient Sampleから 2007-2014の脳内出血患者99212人の記録について、

院内死亡率、退院先、入院期間、気管切開、胃ろう、脳室シャントとの関連を解析したところ、



次のことがわかった。

・肥満と病的な肥満では、肥満でない(BMI<30)患者にくらべ院内死亡率があきらかに低かった。

・ただし病的な肥満患者では気管切開や胃ろうになる率がたかく、

・ふつうに自宅へ退院できる可能性も低かった。

脳内出血患者のうち、肥満や病的肥満には院内死亡への保護効果がみられた。しかし病的肥満は気管切開や胃ろうになりがちで自宅に退院できないことがおおかった、


というおはなし。

図:肥満パラドックス


感想:

これまで↓よりもサンプル数が桁違いだ。
脳内出血の肥満パラドックス

脳内出血の肥満パラドックスがあきらかに

2019年3月27日

オーラルセックスでくも膜下出血


Subarachnoid haemorrhage- a sinister cause of transient loss of consciousness during oral sex - BMJ Case Reports
2019  3月  イギリス

くも膜下出血では「雷鳴頭痛」とよばれる激しい頭の痛みを訴えることがおおい。しかし一時的に意識をうしなうケースもすくなくないため診断がむつかしい。

今回、オーラルセックスで責められ数分間意識を失ったところ実はくも膜下出血だった、という事例がみつかったそうな。


・救急部に44歳の女性が運ばれてきた。

・救急車は彼女のパートナー(性別不明)が呼んだ。

・パートナーいわく、オーラルセックス中に彼女がオーガズムに達しそうになり、そのまま2-3分間意識をうしなった、とのこと。

・救急部到着時の意識レベルはGCS15/15で異常なし、中(6/10)レベルの頭痛を訴えていたものの、他の神経症状はなかった。

・患者には喘息とじんましんの病歴があり、血圧、心電図は正常だった。

・当初ただのけいれん発作を疑ったが、ねんのためCTを撮ったところくも膜下出血とわかり、つづくCTアンギオで前交通動脈に7mmの瘤をみつけた。

・翌日コイルを詰める手術をして、

・15日後に後遺症もなく退院した。
意識が飛ぶようなケースではCTを撮ってみることがだいじ、


というおはなし。

図:オーラルセックスでくも膜下出血


感想:

ふつう救急車呼ぶかね?

気持ちよさのあまり失神して目がさめると救急隊員が上がり込んできてそのまま病院へ連れてゆかれる。ちょっと頭いたいくらいなのに手術が必要といわれ 死亡リスクの高いコイル術をなかば強引に受けさせられる。

ひどいパートナーだ。

オナニーがきっかけで脳出血になる割合

2019年3月26日

再発率急上昇中 in China


Trends in the incidence of recurrent stroke at 5 years after the first-ever stroke in rural China: a population-based stroke surveillance from 1992 to 2017

いっぱんに再発は脳卒中患者の30%以上をしめるという。

過去20年間で世界全体の脳卒中経験者数は84%増加するいっぽう、高所得国での脳卒中発生率は低下傾向にある。

中国では脳卒中発生率は上昇傾向にあるが、再発率についての集団ベース研究はほとんどないのでくわしくしらべてみたそうな。



1992-2017年の中国農村部での脳卒中患者768人について、その後の5年間の再発の有無をしらべ傾向を解析したところ、



次のことがわかった。

・5年間に全体の26.3%が再発を経験した。彼らは平均65歳で比較的若く 平均教育歴3年で 88%は中学校をでていなかった。脳内出血の32%、脳梗塞の25.2%が再発していた。年齢調整後の再発率は10万人あたり年間43.93人だった。

・2006-2012年の患者に限定すると、再発率は男性が107.79人で 65歳以上では557.76人だった。

・再発率はあきらかな上昇傾向にあり、1992-1998と比べると2006-2012では相対リスク6倍以上、女性はさらに高かった。

中国農村部の脳卒中患者の26%が発症後5年間に再発していた。再発率はおおきく上昇傾向にあった。緊急のリスク管理対策が求められる、


というおはなし。

図:中国の再発リスク傾向


感想:

リスク管理よりも基礎教育の普及がさきかな。

2019年3月25日

rt-PAの害と虚血コンディショニング


rt-PA with remote ischemic postconditioning for acute ischemic stroke
2019  1月  中国

脳梗塞には rt-PAをつかった血栓溶解治療がもっとも効果的といわれているものの、患者の50%近くにはなんらかの障害が残る。

rt-PAの線維素溶解作用により脳はさらに傷つき 血液脳関門が破壊され脳内出血のリスクが高まる。じっさい rt-PA治療を受けた者の9-27%に脳内出血が生じ、5%はあきらかな神経症状をしめす。

それゆえ rt-PAによる有害事象をふせぎ脳神経を護る対策がもとめられている。

遠隔虚血コンディショニング(remote ischemic conditioning:RIC)は腕や脚を一時的に虚血にして解放するサイクルを幾度か繰り返すことで 活性酸素レベルを下げ、血管内皮機能を高め、脳血流を増加させることができる。

動物実験ではRICが脳の梗塞体積をちいさくし機能回復をうながす効果が報告されている。

臨床実験はrt-PAの直前にRICを行った例が2014に報告されているので、rt-PA「直後」にRICをおこなうポストコンディショニングの実行可能性と安全性をたしかめてみたそうな。



ガイドラインにしたがいrt-PA治療となった患者30人を2グループにわけ、
いっぽうにはRICを、もういっぽうには通常のケアをおこなった。

RICは両腕にカフを巻き200mmHgで5分間締め付け 5分間解放のサイクルを1セット5回、1日2セット、rt-PAの直後からはじめて7日間つづけた。

RICに要した時間、血中ミオグロビン、出血性変化ほか有害事象を調べたところ、



つぎのようになった。

・RICを完遂した患者は97.0%で、1セット完了までの平均時間は66分間だった。

・RICグループで出血性変化が1例みられた。

・ミオグロビンレベルにグループ間の差はなかった。

急性脳梗塞患者へのrt-PA治療直後の遠隔虚血ポストコンディショニングは実行可能でかつ安全であると考えられた、


というおはなし。

図:虚血コンディショニングの紅斑
有害事象例


感想:

rt-PAは危険だから慎重に扱われてきたのに、いろんなちからが働いてついに学会から「発症からの時間にかかわらず恣意的な運用が可能!」とのお墨付きがでてしまった。↓↓↓ ええんか?
脳梗塞 “血栓溶かす治療をより多くの患者に” 治療指針変更(3月22日 NHK News)

2019年3月24日

3-4年後の社会的認知障害


Social cognition impairments are associated with behavioural changes in the long term after stroke
2019  3月  オランダ

脳卒中のあとの行動変容が患者のQoLにネガティブな影響を与えることはめずらしくない。

これら行動の変化は社会的 感情的に不適切なものがおおく、たとえば相手の感情や考えを理解せぬままひどいことを言ったり無視をしたりする。

このような行動変容の背景には社会的認知障害があると考えられ、脳卒中のあと時間が経っても続くものかは わかっていない。それを確認するためのテストと 患者自身の認識および近親者にもアンケートをとってその乖離度を評価してみたそうな。



発症から3-4年経った自立度の悪くない脳卒中患者119人および健常者50人について、

社会的認知能をしる方法として、
*感情認識(Emotion recognition):顔の画像から感情を読み取る。
*心の理論(Theory of mind):漫画から他者の信念を推し量る。
*共感(Empathy):失礼な扱い(faux pas)をうけた者の気持ちを知る。
*行動調整と抑制(Behaviour regulation and inhibition):ヘイリング文章完成法課題。

の各テストをおこなった。

さらに患者自身とその近親者について遂行機能障害アンケート(Dysexecutive Questionnaire:DEX)を行い関連を解析した。



次のことがわかった。

・脳卒中患者の 感情認識、心の理論、行動調整と抑制テストの結果が健常者にくらべあきらかにわるかった。

・DEXスコアの平均値について、自己評価値と近親者評価値とであきらかな違いはなかったが、

・感情認識、共感、行動調整と抑制スコアの低さと近親者によるDEX評価に関連がみられた。

軽度の脳卒中患者であっても社会的認知障害が長期にみられた。これらの障害は近親者の目にもあきらかであり、行動変容の原因と考えられた、


というおはなし。

図:DEX items


感想:

その種の能力については脳卒中をやるまえのほうがひどかったとおもう。

頭のはたらきがわるくなったことを自覚しているぶん いまのほうが自らを客観視できるようになった。

2019年3月23日

腸内細菌への長期の影響は


Rsearchers explore stroke's effects on microbiome -- ScienceDaily
2019  3月  アメリカ

腸と脳はたがいに関係しあってはたらいていて(gut-brain axis:腸脳相関)、脳卒中になると腸内細菌叢の構成がおおきく変わることが報告されている。

しかし長期の変化をしらべたものはないので動物実験してみたそうな。
2月の国際脳卒中会議でのウェストバージニア大学の報告。

2019年3月22日

復職後 長期の就労率トレンド


Factors, trends, and long-term outcomes for stroke patients returning to work- The South London Stroke Register
2019  3月  イギリス

脳卒中の4分の1は労働可能年齢者で、脳卒中を経験したかれらは一般人よりも失業する可能性が3倍になるという。

脳卒中ののち復職する者を長期にフォローをした調査はすくないのでやってみたそうな。



ロンドンの脳卒中患者データベースをつかって、
1995-2014の患者5609人について、1,5,10年後の就労状況を調べたところ、



次のことがわかった。

・940人が脳卒中の直前まで職に就いていて、かれらのうち19%が3ヶ月後に復職していた。

・その率は、1年後では18%、5年後12%、10年後3%に低下した。

・機能的に自立していて入院が短い患者は早くに復職していた。

・若い患者は 5年後、10年後に就労しつづけていることがおおかった。

・非肉体労働者は10年後の就労可能性がたかかった。

・早くに復職した者ほど5年後、10年後の就労可能性がたかかった。

・機能的に自立状態にあった患者のうち、1年後に48%、5年後42%、10年後28%が就労していた。

・不安やうつの程度がひくくQoLの高いことが1年後の就労と関連していた。

機能的に自立しているほど復職しやすいと考えられるいっぽう、かれらのうち非常におおくの者が復職していなかった、


というおはなし。

図:


感想:

しごとやめたいけど踏ん切りがつかない、、とおもっている人にとって ほどほどの脳卒中は絶好の機会。だから復職しないのだとおもう。
復職後 なん年間仕事を続けられるのか 日本で

2019年3月21日

歯周病と脳内出血の因果関係は


Association between intensive periodontal treatment and spontaneous intracerebral hemorrhage-a nationwide, population-based cohort study
2019  3月  台湾

歯周病は歯石と細菌のはたらきにより歯肉炎からはじまり歯周炎にいたる。一般人の90%が経験するという。

全身にひろがった炎症は動脈硬化をうながし心血管疾患と関連すると考えられている。じっさい、歯周病を脳梗塞や脳内出血のリスク要因として認める報告がいくつもある。しかしその因果関係をあきらかにした調査はまだない。

そこで歯周病治療により脳内出血が減少するものか大規模にしらべてみたそうな。



台湾の健康保険データベースの歯周病患者から、
歯周病の積極的な治療術(フラップ歯肉剥離掻爬術)といった外科治療を受けた者とそうでない者を他の条件をひとしくして32480人ずつ抽出した。

およそ5年間に脳内出血をおこした者との関連を解析したところ、



つぎのようになった。

・歯周病治療グループは非治療グループにくらべ脳内出血リスクが0.60倍で あきらかにひくかった。

・この関連はとくに高齢の男性、2度以上治療を受けた者に顕著だった。

歯周病治療者の記録を解析したところ、かれらのとくに高齢男性の脳内出血リスクはあきらかにひくかった。この因果関係を確認するさらなる調査が望まれる、



というおはなし。

図:歯周病治療術の有無と脳内出血



感想:

フラップ術について10年以上まえにしらべた際、とても危険だと理解した記憶がある。

こんご「脳内出血になるよりはいいでしょ」がフラップ術を勧める際の殺し文句になるかも。
Stroke誌:歯周病のグレードと脳梗塞リスク

口の中が汚いと脳内出血になるという根拠について

脳内出血を起こす虫歯菌の種類が判明

2019年3月20日

慢性期に効く「豆乳リハビリ」とは


Soymilk ingestion immediately after therapeutic exercise enhances rehabilitation outcomes in chronic stroke patients- A randomized controlled trial
2019  3月  台湾

慢性期の脳卒中患者の30-60%はリハビリをいくらがんばっても運動機能がまったく改善しないという。さらに筋肉の萎縮もすすむ。

いっぱんに身体トレーニングとタンパク質の摂取を組み合わせることで筋力と筋肉量を増強できることが知られている。

大豆由来のタンパク質は安価で高品質である。とくに豆乳はアジアでポピュラーでコレステロールフリーしかも種類豊富でコンビニでも手に入る。

そこで理学療法の直後に豆乳を飲むトレーニングセットを8週間続けたときの効果をくわしくしらべてみたそうな。



慢性期の脳卒中で自立歩行のできる外来患者22人を2グループにわけて、
いっぽうには訓練直後に豆乳を他方には水をそれぞれ500mlを2回に分けてあたえた。

理学療法訓練は1回120分x週3回x8週間 継続した。

この前後での筋肉量、身体パフォーマンス(short physical performance battery:SPPB)、歩行速度、筋肉量あたりの歩行パフォーマンス(8-fts walking performance per unit lean mass:WPPULM)、握力、6分間歩行距離
を測定したところ、



次のようになった。

・8週間のリハビリ訓練で両グループともに機能改善があった。

・とくに豆乳グループでは握力、歩行速度、筋肉量あたりの歩行速度、歩行耐久能 が水グループよりもあきらかにすぐれていた。

・しかし身体パフォーマンスと筋肉量に有意な差はなかった。

リハビリ訓練だけではなく、その直後に豆乳を飲むことで 歩行速度、耐久能、握力、筋肉機能のあきらかな改善が慢性期患者に見られた


というおはなし。

図:豆乳療法と慢性期脳卒中



感想:

うえのグラフみると豆乳パワーすごい。

でも豆乳はそんなに安くないし まめ臭い。湯豆腐ならいける。


メモ:
かきにあたった。つらい。

2019年3月19日

nature.com:身内ほど救急車を呼ばないパラドックス


Social networks and risk of delayed hospital arrival after acute stroke
2019  3月  アメリカ

心臓発作のシーンでは医療機関へかかるまでの時間が長くなると患者の死亡率が高くなる。この時間のおくれは患者の症状の目撃者が 状況を理解できず救急車をよばないことによると考えられている。

しかし1000人以上の心臓発作患者の調査では まったくの他人や会社の同僚はすぐに救急要請をするものの、患者に親しい家族とくに配偶者は救急車を呼ばないというパラドックスが報告されている。

これと同様の傾向が脳卒中患者についても見られるものかくわしくしらべてみたそうな。

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