元2025 3月 スウェーデン
・対象患者の平均年齢は58歳、男性が59%を占めた。・手術を受けたのは全体の19.5%(1,223名)であり、最も多かったのは腱切離術であった。・BoNT-A注射を術前・術後に受けた865名については、術前平均1.5回/年だった注射頻度が、術後は0.9回/年に有意に減少していた(p<0.001)。・BoNT-Aの総施行件数は12年間で大きく増加した一方で、手術件数は横ばいであった。・さらに、BoNT-A注射には超音波ガイドの利用が増加していた。地域間では手術実施率に大きなばらつきがみられた。
なぜ痙縮軽減手術が2割にとどまるのか?
「痙縮軽減手術を受けた脳卒中患者が2割にとどまる」――この現象には、患者の希望や重症度だけではなく、医療制度・文化・知識の偏りなど複雑な要因が絡んでいる。
1. BoNT-A注射が第一選択として定着している
非侵襲的で繰り返し可能なBoNT-Aは医師・患者ともに選びやすい。実際、2010年から2021年でBoNT-A施行件数は2.5倍以上に増えたが、手術件数は横ばいであった。これは「まず注射、手術は最後の手段」という慣行を反映している。
2. 手術を実施できる医療資源が限られている
論文では手術の地域差が5倍に及ぶとされ、専門医や対応施設の偏在が浮き彫りになっている。医療アクセスの格差が、手術のチャンスそのものを左右している。
3. 手術という選択肢が知られていない
多くの患者は手術に「紹介されないまま終わっている」と著者は述べる。BoNT-Aでの経過観察が続くうちに、医師も患者も手術の検討を見送ってしまう現実がある。
4. 手術のエビデンスがBoNT-Aほど明確でない
BoNT-Aは短期効果に関する多数の研究があるが、手術は長期成績や患者選定の基準が不明確に思われやすい。そのため、医師側に「様子見で注射を継続する」保守的判断が働きやすい。
5. 高齢者では治療機会自体が奪われている
研究対象の平均年齢は58歳だが、スウェーデンの脳卒中平均年齢は74〜75歳。高齢者ほどBoNT-Aも手術も受けにくく、「見送られる」傾向が強い。
結論
手術が2割にとどまっているのは、需要がないからではない。
紹介されず、届かず、知られず、怖れられ、後回しにされている――
つまり、構造的・文化的に「遠ざけられている治療」なのである。