元2025 4月 オーストラリア
1. 行動のタイプ:- 言語的脱抑制(怒鳴る、失礼な発言、性的コメントなど)が中心で、非言語的行動(接触、物を叩くなど)も一部に見られた。- 本人は非言語的行動を自覚していないことが多く、介護者が気づいていた。- 例:「思ったことがそのまま口から出る感じ」(John, ABI)/「スーパーで他人の体型に大声で指摘」(Mary, carer)2. 誘発要因:- 疲労、睡眠不足、不安、怒りなどが脱抑制を誘発していた。- 一部には感情とは無関係に行動が生じる「非情動性脱抑制」も確認された。- 例:「寝不足になると怒り出す。まるで酔っているみたいになる」(Lucy, carer)/「感情なしでふと出てしまう」(Steven, ABI)3. 社会的環境との関係:- 公共の場でも家庭でも脱抑制は発生し、環境による制御が効かない例が多かった。- 例:「事故後は家だけだったが、今は役所の窓口でも怒鳴る」(Lucy, carer)/「教会では絶対に怒らない」(Carol, carer)4. インサイト(自己認識):- 多くは「他人に言われて初めて気づく」段階の気づき(prompted insight)であり、自発的な気づき(unprompted insight)は稀だった。- 例:「“それ失礼だよ”って言われて初めて気づく」(Louise, ABI)/「指摘すると“世の中がうるさいだけだ”と逆ギレ」(Mary, carer)5. 結果としての影響:- 人間関係の断絶、職場からの排除など、実生活に深刻な影響が出ていた。- 例:「誰も会いに来なくなった」(John, ABI)/「ボランティア先を追い出され、別の場所に移った」(Steven, ABI)
🧠 社会的脱抑制をあえてポジティブに解釈する7つの視点
① 真実の声を“検閲なし”で届ける能力
脱抑制状態では、思ったことがフィルターなしに出てしまう。それは「空気を読まない失礼な人」ではなく、「社会が見たくない真実を語る存在」とも言える。
🔸例:「あの人は太ってるのにチョコを買ってる」という発言は、社会の“見なかったことにする構造”を破壊する。古代の“道化師”や“狂気の予言者”に似た社会的機能。
② 建前に支配された社会への“ほころび”を入れる存在
常に場にふさわしく振る舞う社会は、強迫的で息苦しい。脱抑制状態の人は、その緊張を壊す“裂け目”として機能する。
🔸「空気を壊す」=「空気に風穴をあける」
③ 自己検閲のない、最もピュアな表現
脱抑制者の語りには「うまく言おう」という加工がなく、一次的な感情や本音がそのまま出る。芸術的・詩的な表現の源泉としてとらえることも可能。
④ 「不快」の中に潜む社会規範の正体を炙り出すセンサー
なぜ我々はそれを“不快”と思うのか? それは誰が作った“正しさ”なのか? 脱抑制者の言動は、社会の「無意識的前提」を浮き彫りにする。
⑤ 演技できない=信頼性の高さ
嘘がつけない/隠しごとができない――それはある意味、“誠実すぎる”存在。ビジネスや政治では忌避されるが、ケア・芸術・純粋な対話の場では尊重される。
⑥ 新しい社会規範や関係性を提案する“異分子”
「その言動は間違ってる!」と言われるたびに逆に問える:「では“正しい”とは何か?」脱抑制的言動は常に規範に穴をあけ、新たな共生の形を模索させる契機になる。
⑦ 個人の「内なる野生」への回帰として
社会に適応しすぎて自己を見失った現代人にとって、脱抑制的な振る舞いは人間性の回復とも見える。「獣的」「原初的」ではなく、「自分のままでいること」に近い。
✅ 結論
社会的脱抑制は「壊すもの」ではなく、「気づかせるもの」である。それは不快なノイズではなく、社会の和音に揺らぎを与える“即興の音”でもある。