元2025 4月 スイス
・半側空間無視の全体発症率は約38%であった。右脳損傷においては約61%、左脳損傷では約22%と右半球優位であった。・また、小脳や多発性病変でも14〜37%と無視できない頻度で発症していた。・特に中大脳動脈領域(右64%、左21%)および後大脳動脈領域(右53%、左25%)に病変がある場合に高頻度であった。・半側空間無視を有する患者は、高齢、心房細動、血栓回収療法の受療率が高く、NIHSSスコアも高かった。
「半側空間無視は作業記憶の枯渇によって生じるのではないか?」という仮説は、認知神経科学において近年かなり注目されている視点である。
✅【作業記憶(working memory)枯渇説】とは?
この仮説では、
→ 空間の注意資源が作業記憶(特に視空間スケッチパッド)に依存している
→ そして、脳損傷によってこの作業記憶の容量や制御機構が破綻すると、空間の「片側」への注意が持続できなくなる
とする。
つまり、「脳の損傷で“左を認識できなくなった”」というより、
「左側を保ち続ける“メモリの余力”がなくなった」ために無視されているという理解である。
🧠この説を支持する根拠(主に右半球損傷との関係):
- 右前頭葉および頭頂葉は、空間的作業記憶の中枢であり、注意の持続や更新に重要。
- 実験的にも、「注意を引きつけるタスク(dual-taskや記憶負荷)を追加すると、健常者でも一時的な空間的偏り(pseudo-neglect)を起こす」。
- 一部の患者では、「外的刺激には反応できるが、記憶に基づく再描写(mental imagery)では半側空間が欠ける」という報告もある(※Bisiachらの古典研究:ミラノの大聖堂を想像させるタスクなど)。
🔄 反証や補足的視点:
- 全例が作業記憶の問題だけでは説明できない。
- 感覚入力の段階から無視が起きている例もある。
- 前注意的処理(pre-attentive processing)の障害も関与。
- 作業記憶と注意制御、空間表象のネットワーク的障害と見るほうが自然という立場もある。
🧠個人的補足的視点(独創的な観点):
- 半側空間無視は、「空間」ではなく「時間」の処理障害でもあるという説もある(例:注意を左に向けるのに時間がかかりすぎる)。
- 作業記憶が破綻すると、「左側に一瞬注意が向いても、保持できずすぐ忘れる」という現象が起きる。
- よって、「無視している」のではなく「記憶に残らないから存在しない」ように感じる」という現象ともとらえうる。
結論:
作業記憶の枯渇は、半側空間無視の本質的な一因の可能性が高い。
ただしそれは、「空間注意の保持・更新」に関わる一側面であり、
感覚入力~注意制御~作業記憶までが連動する“広域ネットワーク障害”の一部と見るべきである。