元
脳卒中は運動障害、失語、認知障害、疲労、うつなど、さまざまな後遺症をもたらす疾患である。これらの後遺症は患者の生活の質を著しく低下させ、社会復帰を困難にする要因となっている。
従来のリハビリテーションに加えて、薬物による機能回復の補助が模索されており、その一環として神経刺激薬(neurostimulant)が注目されている。
これらの薬剤は本来、パーキンソン病やADHD、ナルコレプシーなど他の疾患に用いられるが、その中枢神経系への作用を活かして、脳卒中後の神経可塑性を高める可能性があると考えられているので、成果をまとめてみたそうな。
神経刺激薬の脳卒中後回復における有効性を検討した34件の臨床試験を対象としたナラティブ・レビューをこころみた。対象となった薬剤は、メチルフェニデート(6件)、アンフェタミン(8件)、メマンチン(2件)、モダフィニル(2件)、レボドパ(14件)、アマンタジン(1件)、ブロモクリプチン(3件)、ロピニロール(1件)である。
31件はランダム化プラセボ対照試験であり、そのうち27件が二重盲検、2件が単盲検、2件が非盲検試験であった。研究デザインは多群比較(23件)、クロスオーバー(10件)、自己対照(1件)であり、平均サンプルサイズは49.4名(5〜593名)であった。
次のことがわかった。
・薬剤ごとに効果の傾向が異なった。メマンチンは失語に対して有効である可能性が示されたが、大規模第III相試験は未実施である。
・ブロモクリプチンとアンフェタミンは、失語への長期的な効果を支持する証拠が不足している。
・レボドパは運動性失語には有効の可能性があるが、運動機能回復への長期的効果は確認されていない。
・ロピニロールも運動機能回復への効果は見られなかった。
・メチルフェニデートは認知機能改善への効果は限定的であったが、機能的アウトカムや気分改善には一定の有効性が示唆された。
・モダフィニルは慢性的な脳卒中後疲労への効果が期待される。
神経刺激薬は、脳卒中後の各種後遺症に対して一部有望な効果を示しており、特にメマンチンとモダフィニルに関しては一定の臨床的意義があると考えられる。しかし、既存の研究は小規模かつ異質性が高く、統一された結論を導くには限界がある。今後は、より大規模でデザインの整った臨床試験を通じて、各薬剤の適応と有効性を明確に評価する必要がある。また、薬剤単体の効果だけでなく、リハビリテーションとの相乗効果の可能性にも注目すべきである、
というおはなし。
感想:
『薬の種類別リハビリ効果を表にしてください。』
神経刺激薬 |
失語 (Aphasia) |
運動障害 (Motor deficit) |
認知障害 (Cognitive) |
疲労 (Fatigue) |
うつ (Depression) |
ブロモクリプチン |
十分な証拠がない |
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レボドパ |
運動性失語に効果の可能性 |
長期的な効果なし |
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アンフェタミン |
十分な証拠がない |
十分な証拠がない |
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メマンチン |
効果がある可能性 |
効果がある可能性 |
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メチルフェニデート |
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機能改善の可能性あり |
効果限定的 |
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改善の可能性あり |
ロピニロール |
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効果なし |
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アマンタジン |
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意識レベル改善の可能性 |
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モダフィニル |
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慢性疲労に効果の可能性 |
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