元
脳卒中は命に関わるだけでなく、後遺症によって日常生活の質が大きく下がってしまう病気である。今の治療は主に発症直後にしか効果がなく、その後の回復を助ける方法が少ない。リハビリも大事だが、それだけでは限界がある。
そこで、脳の中で細胞同士がどうやって働きあっているのか、そしてミトコンドリアという細胞の中の「エネルギー工場」を使った新しい治療に注目し、後遺症の改善に役立てる方法をくわしくしらべてみたそうな。
脳の中で細胞がどのように助け合っているかに注目した。特に「ニューロバスキュラーユニット(NVU)」と「オリゴバスキュラーニッチ(OVN)」という脳の中の小さなチームのような仕組みに注目した。NVUは大脳皮質で、神経細胞や血管の細胞が協力する場所である。OVNは白質という部分で、特に神経の信号を早く伝える細胞(オリゴデンドロサイト)と血管の細胞が関わっている。
また、脳の中の掃除屋であるミクログリアや、サポート役のアストロサイトが、炎症を引き起こす悪い状態にも、回復を助ける良い状態にもなりうることに注目した。そして、他の研究で使われた「元気なミトコンドリア」を使った治療が、これらの細胞の働き方を良い方向に変える可能性を考えた。
次のことがわかった。
・過去の研究をまとめたところ、脳卒中のあと、ミクログリアやアストロサイトが炎症を強めてダメージを広げることがあるとわかった。
・しかし、元気なミトコンドリアを移植することで、これらの細胞が回復を助けるモードに切り替わり、神経のダメージが減ったり、白質が修復されたりすることが示されている。
・特に、アストロサイトから取り出したミトコンドリアが壊れた神経細胞に入り込み、エネルギーを補ったり、炎症を抑える働きをすることが確認されている。
ミトコンドリア移植は、足りない分を補うのではなく、壊れてうまく働かなくなったミトコンドリアの代わりに、元気なミトコンドリアを届けて助けるという発想である。これによってエネルギー不足や炎症が改善され、神経細胞が回復しやすくなる。今回の研究では、脳卒中後の回復を助ける方法として、ミトコンドリア移植が有望であることがわかった。今後は人で使うための安全性や、どうやって体に入れるかを検討していく必要があるが、将来の後遺症対策として大きな可能性を持っている治療法である、
というおはなし。
感想:
ミトコンドリア療法は初耳なので関心をもった。
『ミトコンドリア移植は再生医療なの?』
ミトコンドリア移植は再生医療なのか?
結論:
ミトコンドリア移植は広い意味では「再生医療」に含まれますが、従来の再生医療とはやや性質が異なる「次世代型細胞外療法」ともいえます。
再生医療とは?
通常、再生医療とは次のような特徴を持ちます:
- 幹細胞などの生きた細胞を用いる
- 失われた組織や臓器を再生・修復する治療
代表例としては、iPS細胞を使った網膜再生や、骨髄幹細胞による心筋再生などがあります。
ミトコンドリア移植の特徴
項目 | 内容 |
使用するもの | 細胞ではなく「細胞内小器官(ミトコンドリア)」 |
目的 | 損傷細胞の機能回復、エネルギー補充、炎症抑制 |
再生の形 | 組織の完全な再構築ではなく、機能の回復・改善 |
つまり、細胞そのものを移植する従来型再生医療に比べ、よりシンプルかつ安全性が高い可能性があります。
再生医療に含まれる理由
- 損傷した組織の修復を目的としている
- 身体の自然治癒力を活かす
- 細胞の分化や成長を促す
まとめ
ミトコンドリア移植は、幹細胞のような「細胞そのもの」ではなく、細胞内の“エネルギー工場”であるミトコンドリアを利用することで、より安全かつ手軽に脳機能の回復を目指す、次世代型の再生医療といえる。