元
脳卒中の再発は予後や生活の質に大きく影響するが、現在の医療では高血圧や糖尿病などの臨床情報に基づく予測が中心であり、遺伝的リスクを考慮した再発予測はほとんど行われていない。
最近ではポリジェニックリスクスコア(PRS)を用いた疾患予測が注目されているが、脳卒中の再発に関しては有効性が乏しいとの報告が多い。
そこで、日本人集団に特化した最適なPRSを構築し、それが脳卒中の再発予測に活用できるかをくわしくしらべてみたそうな。
BioBank Japan(BBJ)第一期コホート(BBJ1、2003〜2007年、約18万人)を用い、虚血性脳卒中、心房細動(AF)、心筋梗塞(MI)、拡張期血圧(DBP)といった複数の疾患・リスク因子に対するPRSを構築し、10-foldクロスバリデーションにより最適化した。10-foldクロスバリデーションとは、データを10個に分けて9個で学習し、残り1個でテストするという手順を10回繰り返して、モデルの性能を公平に評価する方法である。
構築された各PRSを統合し、metaGRS(統合型リスクスコア)として重み付けを行った。metaGRSとは、複数の病気やリスク因子の遺伝的リスクスコアをまとめて1つのスコアにしたものであり、より精度の高い予測が可能になるという利点がある。
検証には独立したBBJ第二期コホート(BBJ2、2012〜2017年、約4万人)を用い、脳卒中の再発リスクとの関連を統計的に評価した。また、高血圧の有無で層別化してmetaGRSの影響を比較した。
次のようになった。
・BBJ2における再発脳卒中患者(n=174)と非再発対照(n=1153)を解析したところ、metaGRSは再発と有意に関連していた(1標準偏差あたりのオッズ比1.18、95%信頼区間1.00–1.39、P=0.044)。
・さらに、高血圧の既往がない群において、metaGRSが高い者は低い者に比べて再発リスクが2.24倍であった(P=0.032)。一方で、高血圧を有する群では有意な関連は認められなかった。
日本人集団から開発されたmetaGRSは、脳卒中の再発リスク予測に有効であり、とくに高血圧のない患者においてその有用性が際立った。これは、従来のリスク評価だけでは見逃される可能性のある「遺伝的にリスクの高い層」を抽出する手段となり得る。今後、個別化医療や再発予防のための新たな戦略として、遺伝的情報の活用が期待される、
というおはなし。
感想:
『高血圧でなくても、すくなくとも拡張期血圧が高いと再発しやすいってことね。』
拡張期血圧(DBP)と脳卒中再発の関係
この研究のmetaGRSには、拡張期血圧(DBP)のポリジェニックリスクスコア(PRS)が含まれており、高血圧と診断されていない人でも、遺伝的に「血圧が高くなりやすい体質(特にDBP)」を持っている場合は脳卒中が再発しやすいことが示唆されている。
- metaGRSが高い人は、血圧が正常でも隠れた再発リスクを抱えている可能性がある。
- 特に高血圧の診断がついていない人において、metaGRSが高いと再発リスクは2.24倍に上昇する。
つまり、血圧が正常でも「脳卒中再発しやすい遺伝的体質」がある可能性があるということになる。
これは、今の医療では見逃されがちな「静かな高リスク層」が、遺伝的なスクリーニングによって発見されうることを示している。