元
脳卒中後の高齢者に対して、ベンゾジアゼピン(BZD)が不眠や不安の軽減などの目的で広く使用されている。
しかし、BZDは高齢者の転倒リスクを高めることが知られており、脳卒中によって運動機能やバランスが低下している患者に対して使用することのリスクは極めて高いと考えられる。特に急性期における短期的な使用がどの程度有害事象を引き起こすのかについては、明確なデータが不足していた。
そこで、急性脳梗塞(AIS)患者におけるBZD使用と、転倒または転倒関連外傷(FRI)のリスクとの関連を、厳密な手法でしらべてみたそうな。
2014年から2021年の間に急性脳梗塞で入院した65歳以上の高齢者のうち、過去3カ月以内にBZDの使用歴がなく、かつ初回の脳卒中と診断された患者を対象とした。
データは「Get With The Guidelines-Stroke」レジストリと、マサチューセッツ総合病院の電子カルテを用いて収集された。BZDを入院後3日以内に使用開始した群(495人)と、使用しなかった群(2,564人)を比較し、逆確率重み付け法を用いて交絡を調整し、転倒または転倒関連外傷の発生率を評価した。
次のようになった。
・BZD使用群では、10日間の転倒またはFRI発生率は1000人あたり694件(95%信頼区間: 676–709)であったのに対し、非使用群では584件(95% CI: 575–595)であった。
・全体として、BZD使用は転倒リスクを110件/1000人分上昇させる結果となった。
・サブグループ解析では、65〜74歳の若年高齢者で+142件/1000人、75歳以上では+85件/1000人のリスク上昇が確認された。
・さらに、軽度脳卒中(NIHSSスコア<=4)では+187件/1000人と最もリスクが高かった一方、中等度〜重度脳卒中では+32件/1000人であった。
急性脳卒中患者に対して、入院後3日以内にベンゾジアゼピンを使用することは、極めて短期間であっても転倒や転倒関連外傷のリスクを大きく高めることが明らかとなった。特に、歩行可能な軽症例や比較的若い高齢者においてリスクが顕著であり、リハビリテーション開始直後の機能回復に深刻な障害を与える可能性がある。したがって、脳卒中急性期におけるBZDの使用には慎重を期し、他の安全性の高い代替手段の検討が必要である、
というおはなし。
感想:
『そんなに評判わるいのになんでベンゾジアゼピン使ってるの?』
なぜベンゾジアゼピンは今も使われているのか?
結論:便利だから、慣れているから、そしてすぐ効くから。だがそれこそが落とし穴。
① 即効性と使いやすさ
- 飲めばすぐ効く。多用途で万能。
- 救急現場・夜間当直では「とりあえずBZD」が定着。
② 高齢者への処方慣行が根強い
- 昭和・平成の“安定剤文化”の名残。
- 医師も患者もやめ時を見失っている。
③ 医療側のジレンマ
- 代替薬は効果が穏やか、保険適用の壁。
- BZDは「寝かせる薬」として都合がいい。
④ 患者側の心理的依存
- 「これがないと不安」という感覚そのものが依存。
- 医師も強く止められない構造がある。
本質的な問題
“便利さ”と“副作用”の天秤が、現場では便利さに傾いている。