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YouTubeは誰もがアクセス可能な巨大な動画共有プラットフォームであり、医療情報の発信源としても注目を集めている。とくに脳卒中リハビリのように、専門的かつ継続的な知識と実践を要する分野では、動画コンテンツが患者や介護者の理解と実践を支える手段となりうる。
しかし、その一方で、動画の質や信頼性には大きなばらつきがあり、誤情報や不適切な内容も少なくない。そこで、脳卒中リハビリに関するYouTube動画の質と信頼性を系統的に評価し、どのような動画が高品質であるかをくわしくしらべてみたそうな。
2024年12月17日に、YouTube上で「Stroke Rehabilitation」「Stroke Physical Therapy」「Stroke Neurophysiotherapy」「Stroke Physical Therapy Techniques」の4つの検索語を用いて動画を抽出した。
各検索語につき上位50件、合計200本の動画を対象とし、言語や内容の重複、尺の長さ(1分未満および60分超)、映像や音声の欠陥などを基に除外基準を適用した結果、最終的に72本の動画が評価対象となった。
評価には以下の4つの指標を用いた:
- Global Quality Scale(GQS):動画全体の質と有用性を5段階で評価する指標。内容の一貫性、構成、視聴者への有益性などを総合的に判断する。
- Modified DISCERN Questionnaire:情報の信頼性を評価する5項目のチェックリスト。出典の明示、バイアスの有無、選択肢の提示などに着目する。
- JAMA Benchmark Criteria:インターネット上の医療情報の正確性を判断する指標。著作権、責任の所在、更新日、情報源の明示などを評価する。
- PEMAT-A/V(Patient Education Materials Assessment Tool for Audiovisual Materials):視聴者にとっての「理解しやすさ(Understandability)」と「行動しやすさ(Actionability)」を%で評価する指標。構成、言葉のわかりやすさ、視覚補助の活用などを分析対象とする。
また、動画の出典元(医療機関、専門職、独立ユーザーなど)や視聴数、コメント数などに加え、動画のプレゼンテーション形式についても分類した。
具体的には、72本中80.6%(58本)がナレーションのみの構成、6.9%(5本)が患者の体験談を含む形式、4.2%(3本)がアニメーション形式、8.3%(6本)がスライドとナレーションを併用した形式であった。
次のようになった。
・評価対象となった72本のうち、29.2%(21本)が低品質、20.8%(15本)が中程度、50%(36本)が高品質と分類された。
・とくに、学術的な医療機関と医師以外の医療専門職が発信した動画は高品質である割合が高く、それぞれ77.8%と59.4%が高評価を得た。
・一方、独立ユーザー(100%が低品質)やテレビチャンネル(66.7%が低品質)からの動画は評価が低かった。
・興味深い点として、評価対象となった動画の中に医師(physician)単独によって作成されたものは一つも含まれていなかった。ただし、学術的医療機関による高品質動画には、医師が制作や監修に関与している可能性が高いと考えられる。したがって、「医師による情報発信が完全に欠如している」と断定することはできないが、医師が単独で発信主体となる動画が極めて少ないという現状は明らかである。これは、リハビリ医などの専門職が動画による情報発信に十分参入していない現状を浮き彫りにしており、将来的な改善の余地と重要性を示すものである。
・さらに、視聴回数や「いいね」、コメント数などのエンゲージメント指標と動画の評価には有意な相関が認められ、ユーザーの反応も一定の信頼性を示す指標となる可能性が示唆された。
YouTube上の脳卒中リハビリ動画には質のばらつきがあり、高品質なものは主に医療機関や専門職によって制作されていた。一方で、医師単独による情報発信は極めて少なく、今後は医師の積極的な関与と発信の強化が求められる。教育的価値の高い動画には一定の長さと構成が重要であり、信頼性ある情報を集約する取り組みも必要である、
というおはなし。
感想:
『医療サービスのマーケティング手段としてはユーチューブは優秀。役立つかどうかは?』
YouTubeは医療サービスの優秀なマーケティング手段か?
✅ 医療マーケティングとしての強み:
- 視認性と拡散力が抜群:誰でも無料でアクセスでき、SNSでも拡散されやすい
- 動画で信頼感を醸成:顔出し・実演で専門性や親しみやすさを演出できる
- SEO効果あり:Google検索で上位表示されやすく、医院の認知度が上がる
- 教育・啓発との相乗効果:医療情報の発信で社会的信頼を高められる
⚠ 一方で「役に立つかどうか」は別問題:
- 印象と実効性は一致しない:見やすくても内容が正しいとは限らない
- 自己流の誤解を招きやすい:特に脳卒中リハでは個別対応が欠かせない
- 共感=治療効果ではない:感動的なストーリーが正しい指導とは限らない
「YouTubeは医療の宣伝には強いが、治療の代わりにはなりにくい」
あるいは──「見ても治らない。でも、見られれば患者は来る」