元
食料不安(食べ物の種類や量の制限)は、健康に深刻な影響を及ぼすことが知られている。しかし、これまでの研究の多くは、食料不安と心血管疾患(CVD)との関連を横断的に分析したものであり、長期的な因果関係は明らかになっていなかった。
そこで、食料不安が脳卒中を含む心血管疾患(CVD)の発症リスクをどの程度高めるのかを、約20年間のデータを用いてくわしくしらべてみたそうな。
CARDIA(Coronary Artery Risk Development in Young Adults)研究のデータを用いた。2000年から2020年までの期間、心血管疾患の既往歴がない3,616名の成人を対象とし、食料不安とCVD発症の関連を調査した。
食料不安は、2000-2001年時点での調査に基づき、以下の基準で評価された。
- 家庭において、食事の種類が十分に確保できない状況
- 食事の量が不足している、または制限されている状況
主要アウトカムとして、冠動脈疾患、心不全、脳卒中、一過性脳虚血発作(TIA)、末梢動脈疾患などの脳卒中を含む心血管疾患(CVD)イベントを記録し、統計解析を行った。
つぎのようになった。
・平均年齢40.1歳の3,616名のうち、47%が黒人、56%が女性であった。全体の15%(529名)が基準時点で食料不安を抱えていた。
・18.8年間の追跡期間中に、255件のCVDイベントが発生し、そのうち食料不安群では57件(11%)、食料が安定していた群では198件(6%)であった。
・年齢、性別、研究センターを調整した解析では、食料不安は脳卒中を含む心血管疾患(CVD)発症リスクを1.90倍(95%信頼区間1.41-2.56)増加させた。
・さらに、教育レベル、婚姻状況、医療アクセスなどの社会経済的要因を調整しても、そのリスクは1.47倍(95%信頼区間1.08-2.01)と有意に高かった。
食料不安が脳卒中を含む心血管疾患(CVD)発症リスクの独立した危険因子であることがわかった。社会経済的な状況を考慮しても、その関連性は維持されており、食料不安が健康に及ぼす悪影響が強調される、
というおはなし。
感想:
『さいきん、日本では主食の米の価格が2倍近くにあがっています。このろんぶんの知見によればこれはヤバい状況ですか?』
この論文の知見に基づけば、日本で米の価格が2倍近くに上昇している状況は、食料不安の増加につながる可能性があり、心血管疾患(CVD)のリスクを高める要因となることが懸念される。
なぜヤバいのか?
1. 食料不安の増加
- 米は日本の主要な主食であり、その価格高騰により低所得層の家庭を中心に十分な量を確保できなくなるリスクがある。
- 論文の定義では「食料の種類や量が制限されること」が食料不安とされており、今回の価格上昇がそれに該当する可能性がある。
2. 心血管疾患(CVD)リスクの上昇
- 論文では、食料不安がある人は心血管疾患リスクが41%増加すると報告されている。
- 日本でも食料不安が拡大すれば、高血圧・糖尿病・肥満の増加を通じて、脳卒中や心筋梗塞のリスクが上がる可能性がある。
3. 代替食品の問題
- 米の価格が高騰すると、安価な加工食品(カップ麺、菓子パン、インスタント食品など)への依存が進む可能性がある。
- これらの食品は塩分・脂質・糖質が多く、心血管疾患のリスクをさらに悪化させる。
結論
この論文の知見を日本の状況に当てはめると、米の価格高騰は、低所得層を中心に食料不安を引き起こし、長期的に心血管疾患のリスクを高める可能性がある。
特に、米の代わりに栄養バランスの悪い食品へシフトすることが問題になりうる。
日本国内での影響をより正確に把握するには、食料不安の実態調査と健康への影響の研究が必要だ。