元
アルツハイマー病(AD)は認知症の主な原因として知られているが、近年、脳内出血(ICH)との関連が指摘されている。
ADの患者では脳血管にアミロイドβが沈着し、脳アミロイドアンギオパチー(CAA)を引き起こすことがあり、これがICHの原因となる可能性がある。
しかし、これまでの疫学研究では、ADとICHの因果関係を明確に示すことは困難であったので、遺伝的因果関係に注目し、メンデルランダム化(MR)を用いて「ADがICHを引き起こすか」をくわしくしらべてみたそうな。
研究では、ADの遺伝的リスク因子として、ゲノムワイド関連解析(GWAS)から得られたSNP(単一塩基多型)を用いた。ADを曝露因子、ICHを結果として、2標本MR解析を実施した。
16のADデータセットと1つのICHデータセットを用い、主要な解析法として逆分散加重法(IVW)を採用し、MR-Egger法やMR-PRESSO法なども補完的に使用した。また、得られた関連遺伝子に対しては、機能的経路解析やタンパク質間相互作用ネットワーク解析(PPI)も行われた。
次のようになった。
・解析の結果、ADの遺伝的リスクはICHの発症リスクを統計的に有意に上昇させることが示された(OR=1.08, 95%CI 1.02–1.15, p=0.01)。
・これは、ADリスク遺伝子を持つ者が、ADを発症する前からICHになる可能性があることを意味する。
・さらにPPI解析により、APOE、SORL1、CLU、ABCA7、APPなどの遺伝子が中心的役割を果たしていることが示され、これらがAβの代謝や血管炎症を通じて出血に関与していると考えられた。
本研究により、ADがICHの原因のひとつであることが遺伝的に証明された。特に、ADに特徴的なアミロイドβの蓄積が脳血管を脆弱化させ、出血の引き金となる可能性が示唆された。臨床現場では、ADリスクの高い患者においてICHの予防を視野に入れた対応が求められる。また、今後はAPOEやCLUなどの遺伝子を標的とした出血リスク評価や個別化医療が重要となるであろう、
というおはなし。
感想:
『まだICHになってないけど遺伝的にADなひとはAD発症のまえにICHになりうる?
そんな人はICHのどのくらいの割合なの?』
ADリスクが高い人はICHになる可能性がある?
答え:ある。
まだICHを発症していないが、遺伝的にアルツハイマー病(AD)のリスクが高い人は、ADの発症前に脳内出血(ICH)になる可能性がある。
根拠
- メンデルランダム化解析により、ADの遺伝的素因がICHリスクを有意に高めることが確認された(OR=1.08, p=0.01)
- これは「ADの遺伝子を持つだけでICHになりやすい」ことを意味する
- 実際、ICH患者の57%でADに特徴的なアミロイド沈着(CAA)が認められる。
どのくらいの割合か?
明確な数字はないが、ICH患者の約半数がADリスク遺伝子を持っている可能性がある。特にAPOE ε4を保有する人に多く、これはAD未発症でも血管障害を起こしうる。
まとめ
ADになる前にICHを起こすケースは遺伝的に存在し、病態はアミロイド沈着(CAA)により引き起こされる。再発や皮質出血など、通常の高血圧性ICHとは異なる特徴があるため注意が必要。