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脳梗塞は、高齢者を中心に発症しやすい疾患であり、その後の回復や生活の質に大きな影響を与える。これまでの研究では、脳梗塞の発症や回復に血管や神経の働きが重要とされてきたが、近年、腸内細菌(腸内マイクロバイオータ) が脳梗塞のリスクや回復に深く関与していることが明らかになりつつある。
そこで、腸脳微生物軸(Microbiota-Gut-Brain Axis, MGBA)がどのように脳梗塞に影響を与えるのかを解明するために、最新の研究を総括してみたそうな。
腸内細菌と脳梗塞の関係を調査した先行研究を包括的にレビュー した。具体的には、腸内細菌の構成の変化、脳卒中後の免疫応答、腸バリアの機能変化、炎症マーカー、および食事介入が腸内環境に与える影響について報告している研究を厳選し、その結果を統合的に解析した。
次のことがわかった。
脳梗塞を発症すると、腸内細菌のバランスが大きく崩れることが確認されている。特に、以下のような変化が起こる。
・ 善玉菌(プロバイオティクス)の減少:Lactobacillus(ラクトバチルス) や Bifidobacterium(ビフィズス菌) の減少。
・ 悪玉菌の増加:Escherichia coli(大腸菌) や Enterobacter(エンテロバクター) などの増殖。
・ 腸粘膜の損傷:腸バリア機能が低下し、腸漏れ(リーキーガット) を引き起こし、炎症性物質が血流へ流入。
腸内細菌のバランスが崩れると、以下のような悪影響が生じる。
・ 炎症の増加:悪玉菌の増加により、リポ多糖(LPS) や トリメチルアミン-N-オキシド(TMAO) などの炎症性物質が増加し、脳梗塞後の炎症を悪化させる。
・ 免疫応答の異常:腸管の免疫システムが過剰に反応し、脳の神経細胞に対する攻撃が強まる。
・ 神経伝達物質の異常:腸内細菌が生成するセロトニンやGABA(γ-アミノ酪酸)が減少し、不安やうつ、認知機能の低下を引き起こす。
・ 消化機能の低下:腸の蠕動運動が低下し、便秘や腸閉塞のリスクが増加する。
適切な食事を取ることで、腸内細菌のバランスを整え、脳梗塞のリスクを低減したり、回復を促すことが可能である。研究では、以下の食事療法が効果的とされている。
・ プロバイオティクス(善玉菌の補充):Lactobacillus や Bifidobacterium を含む食品(ヨーグルト、発酵食品など)を摂取。
・ プレバイオティクス(腸内細菌のエサとなる食品):食物繊維(イヌリン、オリゴ糖)を多く含む食品(豆類、野菜、果物)を摂取。
・ 短鎖脂肪酸(SCFA)の増加:腸内細菌が食物繊維を発酵することで生成されるSCFA(酪酸、酢酸、プロピオン酸)が、腸バリア機能を強化し、脳の炎症を抑える役割を果たす。
・ 地中海式食事(Mediterranean Diet):オリーブオイル、ナッツ、魚、野菜を中心とした食事が腸内細菌のバランスを整え、炎症を抑制。
・ オメガ3脂肪酸の摂取:青魚や亜麻仁油などに含まれるオメガ3脂肪酸が、腸内環境を改善し、脳卒中後の回復を助ける。
腸内細菌が脳梗塞の発症、治療、予後に大きく関与している。脳梗塞後、腸内細菌叢のバランスが崩れ、炎症の増加、神経伝達の異常、免疫の異常が生じる。これを防ぐためには、適切な食事管理やプロバイオティクスの摂取、腸内細菌移植(FMT)などの介入が有効 である、
というおはなし。
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