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脳卒中は、身体的な障害だけでなく心理的・感情的な困難も引き起こす疾患である。その中でも、失感情症(alexithymia)は患者の回復や社会復帰に深刻な影響を与える。
失感情症とは、感情を認識し、適切に表現する能力が低下する状態を指す。若年および中年の脳卒中患者では、この症状が顕著であり、日常生活やリハビリにおいて大きな障壁となる。
そこで、失感情症の特徴や右脳・左脳損傷との関連性、そして失感情症リスクを予測するノモグラム(視覚的リスク予測ツール)についてくわしくしらべてみたそうな。
本研究は、中国の2つの三次医療施設で実施され、18–59歳の脳卒中患者319名を対象とした。データは2022年11月から2023年8月の間に収集された。
患者は日常生活動作(ADL)、社会的支援、脳卒中の重症度(NIHSSスコア)、教育水準、そして損傷部位(右脳または左脳)などの要因で評価された。
これらのデータを基に、失感情症のリスクを予測する動的ノモグラムを作成した。ノモグラムはウェブベースのツールであり、患者個々の特性を入力することで、失感情症のリスクをリアルタイムで計算できる。モデルの精度は、受信者動作特性曲線(ROC曲線)を用いて検証され、トレーニングコホートと検証コホートのそれぞれで高い予測精度を示した。
次のことがわかった。
・感情認識の困難:自分の感情を識別したり、他者に伝える能力が低下する。
・感情と身体感覚の混同:ストレスや不安を身体的な痛みとして表現することが多い。
・想像力の欠如:感情的な内省や創造的な思考が乏しい。
・全被験者319名のうち、右脳損傷は61.0%、左脳損傷は39.0%を占めた。
・失感情症患者(47.8%)のうち、右脳損傷を持つ患者は71.6%、左脳損傷は28.4%であった。
・右脳損傷者は左脳損傷者に比べ、失感情症になるリスクが2.38倍高いと判明した。
・ノモグラムは、以下のリスク因子を基に失感情症の発症リスクを予測した。
・日常生活動作(ADL)スコア:ADLが低いほどリスクが高い。
・社会的支援:支援が少ない患者ほど失感情症のリスクが高い。
・脳卒中の重症度(NIHSSスコア):重症度が高いほどリスクが上昇。
・ノモグラムは、これらの要因を統合し、リスクスコアとして視覚化する。例えば、右脳損傷、社会的支援スコアの低さ、ADLスコアの低下が重なった患者は、失感情症のリスクが非常に高いと予測される。
失感情症は、若年および中年の脳卒中患者において約半数を占める重要な心理的問題であり、特に右脳損傷患者でそのリスクが顕著である。社会的支援や日常生活動作の改善を含む包括的な介入が、失感情症の予防と管理に有効である、
というおはなし。
感想:
じぶんは右脳の出血だったのでとても関心がある。
15年間まいにち医学論文の紹介を淡々と続けてこれたのは、この作業に感情的表現が一切必要ないことがとても居心地よかったからだとおもう。