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脳卒中後のリハビリでは、歩行やバランスの回復に重点が置かれることが多いが、「身体認識(Body Awareness: BA)」という重要な要素が見過ごされがちである。
BAとは、自分の体の位置や動き、バランスを感じる能力や、自分の体を自分のものとして認識する感覚を指す。これには感覚入力(触覚、視覚、内受容感覚)とそれらの統合、さらには認知的な側面も含まれる。
脳卒中によりこの能力が損なわれると、麻痺した部分を「自分のもの」と認識できなくなったり、体の動きを適切に制御できなくなったりする。その結果、日常生活や社会復帰に大きな影響を与える。
そこで、BAリハビリの現状とその課題について最新の研究レビューをこころみたそうな。
PubMed、Web of Science、Embaseといった主要なデータベースを用いて、BAに関連するリハビリ方法を調査した。対象としたのは、脳卒中後の患者を対象としたリハビリテーションプログラムを含む研究である。検索では、亜急性期および慢性期の患者に焦点を当て、身体認識を回復させるための介入方法や治療の効果を検討した文献を収集した。最終的に、10件の研究がレビューの対象として選ばれた。
次のことがわかった。
多くの研究でBAが重要であると認識されながらも、明確な評価基準や標準化されたツールが不足している。現行のリハビリでは、BAが「歩行」や「バランス」の一部として扱われ、身体所有感や内受容感覚といった認知的・心理的側面は軽視される傾向にある。
調査されたリハビリ方法は以下のようなものが含まれる:
・感覚刺激を用いる方法:触覚や聴覚フィードバックを通じて身体の動きや位置を認識する訓練。
・電気刺激や磁気刺激:機能的電気刺激(FES)や反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)を用い、神経回路を活性化する。
・デュアルタスクトレーニング:身体のバランス訓練に認知課題を組み合わせ、運動と認知の統合を図る。
・自然環境でのリハビリ:自然環境で感覚刺激を強化し、心理的満足感を高める。
・バーチャルリアリティ(VR):仮想空間内で自分の身体の動きを体感しながらトレーニングを行う。
研究によると、BAリハビリに関する治療法は断片的であり、総合的なアプローチが不足している。また、神経可塑性が高い亜急性期での介入が少ないため、回復の最適な時期を逃している可能性がある。
BAリハビリは脳卒中後の回復において重要な役割を果たすが、現在のリハビリプログラムはBAの特定の側面に焦点を当てるのみで、統合的な取り組みが不足している。標準化された評価ツールやリハビリプロトコルを開発することで、患者個々のBAの状態を正確に把握し、適切な治療を提供できる可能性がある。特に、神経可塑性が高まる亜急性期での早期介入を強化することが、患者の生活の質を向上させる鍵となるだろう、
というおはなし。
感想:
当初は左半身の感覚がまったくなくて、意識上の腕が身体から飛び出す「幻肢」を体験した。すこし感覚がもどってきたあとも違和感は強く、義手や義足の操作とはこんな感じか、、と思った。
だからBAの考え方には惹かれるけれど、なにかで容易に解決する問題とも思えない。