元
脳卒中後の上肢、特に手や指の動きに影響を及ぼす運動麻痺と感覚障害は、日常生活活動の大幅な低下と生活の質の低下につながる。
手の器用さは、フォークを使う、ボタンを留める、ドアハンドルを開けるなどの道具を操作するために必要不可欠であるが、多くの患者は軽度の運動麻痺があっても、筋力の低下だけでなく、力の発揮に必要な調整や制御が不十分であるために手の機能が限定される。
正確かつ精密な握り動作は、空間的および時間的な領域で感覚フィードバックを通して運動命令を組織するプロセスである。
しかし、脳卒中による神経学的障害は、物体を握る際の握力制御が過剰になる傾向があり、これは運動麻痺だけでなく、感覚障害にも起因する可能性がある。
そこで、慢性脳卒中患者の握力制御の特性を、静的および動的な側面からくわしくしらべてみたそうな。
慢性脳卒中患者24人(女性9人、男性15人、平均年齢67.9歳)が参加し、脳卒中発症後最低10ヶ月経過した人々を対象に研究が行われた。
参加者に対して3つの操作タスクを実施し、握力制御の特性を評価した。
1.把持-持ち上げ-保持タスク(5秒間): このタスクは、参加者が物体を把持し、持ち上げて5秒間保持することを含む。この短時間のタスクは、参加者の握力制御の初期評価に利用される。
2.静的保持タスク(30秒間): 参加者は、同じ物体を30秒間静止状態で保持した。この長時間の保持は、握力の安定性と重量依存の握力調整能力を評価するために設計されている。
3.垂直動的/循環的振動保持タスク:参加者が物体を持ち、それを垂直方向に動的に振動させる。この動的なタスクは、予測握力制御の能力、すなわち参加者が物体の運動に先んじて握力を調整できるかどうかを評価することを目的としている。
次のようになった。
・障害側と非障害側の手で握力制御の評価が行われた。
・ 障害側の手による静的握力(物を握って静止している状態)が、非障害側の手に比べて統計的に大きかったことが示された。つまり、障害側の手はより強く物を握りがちであることが確認された。
・ 感覚障害の影響が運動障害よりも握力制御に大きく影響していることが明らかになった。これは、感覚フィードバックが握力調整に非常に重要であることを示している。
・ 握力と負荷力(物の重さに応じた力)の間の連動性が低下していることが見られ、これは予測制御の困難さを示唆している。感覚フィードバックの欠如が原因で、物の重さを予測して適切な力で握ることが難しくなっている。
・ 全体として、感覚障害が握力制御、特に予測制御に与える影響が大きいことが確認された。これにより、脳卒中患者における手の機能不全の理解が深まり、感覚障害に焦点を当てたリハビリテーションの必要性が示された。
慢性脳卒中患者の握力制御において感覚障害が大きな影響を与えていることを明らかにした。感覚フィードバックの欠如により、適切な握力の調節が困難となり、これが手の機能不全の一因となっていた。そのため、脳卒中後のリハビリテーションでは、運動能力だけでなく感覚機能の回復にも焦点を当てることが重要である、
というおはなし。
感想:
触覚のにぶい左手でパンや魚を握りつぶすことがよくあったのでなるほどとおもった。