元
ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans:SM)は、健常人の70%以上、虫歯患者の90%に存在する口腔内常在菌である。
このうちコラーゲン結合蛋白Cnmを有するSMは脳出血を引き起こすと報告されている。
そこで、CnmポジティブSM(CP-SM)と頭蓋内動脈瘤(IA)の破裂との関係をくわしくしらべてみたそうな。
2013年5月から2018年6月にかけて、破裂IA患者431人と未破裂IA患者470人から全唾液サンプルを採取した。
年齢、性別、喫煙・飲酒習慣、くも膜下出血の家族歴、動脈瘤の大きさ、歯の本数、生活習慣病の併存などのデータを収集した。
次のことがわかった。
・CP-SM率は、RIA陽性者(17.2%)とUIA陽性者(19.4%)であり有意な差はなかった。
・CP-SM率は、直径10mm以上のIAよりも5mm未満のすべてのIAで有意に高かった。
・全例において、CP-SM率は大きな動脈瘤では小さな動脈瘤よりも有意に低かった。
・10mm以上の未破裂IAのうち、CP-SM率はわずか4.7%であり他の群より有意に低かった。
コラーゲン結合蛋白Cnmを持つストレプトコッカス・ミュータンスを有する率は、動脈瘤サイズと逆相関にあり、大きな未破裂頭蓋内動脈瘤の患者であきらかに低かった、
というおはなし。
感想:
この菌をもっている患者は瘤が形成されるや否や破れてしまうので大きな瘤に成長しにくい、ってこと。
イントロダクションにいいことが書いてある。↓
「…UCAS Japanによって報告されたものと同様に、小さい頭蓋内動脈瘤(UIAs)の年間破裂率は低いが、実際には小さい動脈瘤の破裂数はかなり多い。これらの所見は、多くの小さい動脈瘤は形成後すぐに出血する可能性が高いこと、そして破裂せずに成長する動脈瘤のみがUIAsとして検出され、それらの年間破裂率は0.5%未満と低いことを示唆している。」
この事実を突き詰めて、次のことを想う。
くも膜下出血のほとんどは瘤が形成される暇もないノーマル形状の血管壁からの出血であり、出血源だと思っている瘤はたまたま見つかった実は安定している未破裂瘤にすぎない。そう考えると、動脈瘤治療効果を検証するランダム化比較試験がいまだに実施されないことや、動脈瘤治療をしても再破裂率や死亡率がまったく改善しないことにも納得がゆく。